蕎麦店開業の

参考書

【第五回】お客様にリピートしていただくための努力

オープン当初のお店の賑わい

 さあ、めでたく開店にこぎつけたとします。開店初日からお客様が来てくれるでしょう。ありがたい話です。しかし、そのお客様の顔ぶれといってまず目にするのは、お店の建設に携わった方から、食材を卸してくださる業者の方、店主のご友人などです。しかも開店祝いに綺麗なお花まで頂戴して、数日間はことのほか繁盛しているように見えるものです。
 とはいうものの、とりあえずは様子伺いの方も含めてたくさんいらしている中で、これから本当のリピーターになっていただけるのはどれだけの人数なのでしょうか。どのような場合でもつきものの、オープンセレモニー的な賑わいはあくまで営業前の神事のようなものであり、多少売り上げがあったところで一喜一憂してはいけないものです。開店から4日もたった頃以降に、本来のお客様に来ていただけるようになっているのかが重要なのです。
 開店特需でお願いした従業員の皆さんに、当初の見込み違いから労働日数の削減をするなど、愚の骨頂極まりありません。しかしこのような状況は、多くの飲食店が経験することなのです。

 

開店祝いに届けられた花々

 

 

ヒト、モノ、カネの3要素

 会社経営では大事な要素としてよく「ヒト、モノ、カネ」の3つを取り上げますが、飲食業界も同じ事がいえます。飲食店に置きかえて考えると、「ヒト」とはそこで仕事をする方々の資質のこと、「モノ」とはいい食材のこと、「カネ」とは売り上げのことになるでしょう。
 やはり飲食店も潤沢な資金がないといい材料の仕入れができません。飲食店では料理がおいしいということが大基本であり、いい料理をそつなくスマートに提供する姿勢がお客様の心をつかむ基本といえます。

 

 
お客様を待たせない努力

 店舗運営では席数の設定も重要になります。資金に余裕があればついつい席数を多くしがちですが、それが厨房やホールスタッフの提供能力を超えていては、逆にマイナス
要素になってしまいます。
 休日の昼などに、たまたまお客様が一度にいらっしゃったりすれば、店側が対応しきれなくてお客様を待たせてしまうことになります。特にそば店の場合は提供時間が短いのが一般的イメージなので、メニューにもよりますが、注文を受けてから5~10分以内に商品を提供できているかが大事になります。これが30分以上もかかるようなら、私がお客ならもう行かないでしょう。

 

 

キャッシュレス決済の重要性

 会計に時間がかかっていないかもチェックする必要があります。世の中がせわしくなっているので、そこで待たされることもお客様にマイナスの印象を与えてしまい、足が遠のく要因になりかねません。蕎麦店では多くの場合、その時対応できるスタッフが会計処理をしていますが、電子マネーを導入しているかどうかは、今後ますます重要になると思います。電子マネーを嫌う店主の方はほとんどがこういいます。「手数料が高く、入金までの時間がかかるので資金繰りに影響する」と。
 たしかにおっしゃる通りですが、日本でも電子マネーはずいぶん普及してきました。ですから、お客様はせっかく利用している電子マネーが使えないとなると、わざわざ財布から現金を出さなければならなくなります。また、電子マネーを使うとポイントが付いてくるので、使う人にとってはそれも魅力なのですが、お客様がせっせと貯めているポイントを取得できないことになってしまいます。

 

 

キャッシュレス決済の仕組みと自動発券機

 私たちの一匠庵では今の時代に合わせて、できる限りバーコード決済やIC決済を使えるようにしています。大都会ほどではないものの、田舎町なりにも着実に利用者は増えています。キャッシュレスが進んでいる国では、もはや現金を持ち歩かないという時代になっているのです。
 バーコード決済には、PayPayや楽天ペイ、d払いなどがあり、これはスマホ画面のバーコード(QRコード)を店側が読み取ることで支払いが完了する仕組みです。またお客様がスマホのカメラで、レジ脇に置いているQRコードを読み取る方法もあり、この場合お店は専用の読み取り機を持つ必要がありません。
 またSuicaや楽天Edy、iDなどの電子マネーは、スマホやカードをタッチするだけで支払いができるタイプのものですが、こちらはお店で読み取り端末を導入する必要があります。電子マネーの入金期間の問題は、技術の進歩により近い将来には短縮され、リアルタイム決済になっていくのではないかとも思われます。

 

 
キャッシュレス化は人件費の削減にも有効

 現金での決済しかできない場合、スタッフの負担がかかるという問題があります。会計に余計な時間を使わなければならないので、その分だけ商品の提供に時間がかかることになってしまいます。いずれにせよ現金のみでは、人件費が上がっている中で、人件費が効率よく使われていないと考えるべきです。
 また、今や飲食チェーン店で主流になっている「自動発券機」を導入すれば、レジを不要が不要になり(発券機のシステムによってはオーダーも自動化されています)、人手不足と人件費高騰の時代の極めて有効なシステムになるはずです。人手不足が深刻なラーメン店ではすでに一般化していますし、当店以外のそば店でも導入しているところがちらほら出てきています。

 

 

スタッフの接客も味の評価に影響する

 料理の味と同じくらいに気を配らなければならないのが、スタッフの質です。スタッフの接客態度が悪ければ、お客様のお店に対する印象は最悪なものになり、それに引きずられて味まで低評価されるようになってしまいます。人がそのときに感じる味覚は、心理状態によっても大きく左右されるものなのです。
 たとえ高校生のアルバイトでも、お客様からは普通の店員にしか見えないと考えなければなりません。毎日、仕事前の打ち合わせはきちんとやり、スタッフの普段の態度や接客の仕方にも細かな目配りを怠らないようにしましょう。
 お客様との接し方で気持ちの入っていないアルバイト店員など必要ありません。料理は接客に加えて、スタッフの気持ちも味のうちに含まれるものだと考えてください。

 

 

 

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文・日本蕎麦街道代表 本木拓也

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